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EasiaPT blog

東アジア青年交流プロジェクトのブログ

尖閣諸島を考える 孫崎享さん講演録③

講演録

②からのつづき

 

わたしは現実主義だけでなく複合的相互依存をめざすべきだといっている。イスラエルとシリア、インドとパキスタンのような状態では戦争の可能性を残してしまう。象徴的事例でいえば第二次大戦後のフランスとドイツのような関係が必要。敵対国関係にあった両国が、意識して欧州石炭鉄鋼共同体構想をつくることで相互依存関係を築いた。同じように東アジアの共同体をつくる必要がある。領土問題で一番重要なことは尖閣を対立の舞台にしないこと。田中首相も薗田外相もこのことをわかっていた。領土問題は一寸たりとも譲れないと言われるが、物事の一点しか見ていないから解決できない。物事にはいろいろな側面があって複合的な見方ができて、その調和点で解決できることがある。フランス北東部のドイツ国境近くにあるアルザス・ロレーヌ地方は、鉄鉱石や石炭を採掘できるため両国間で領土の奪い合いをした地域。ドイツ語を使う地域でもあるが、第二次大戦後ドイツはそこを返せと言っていない。それよりも両国間で平和合意して繁栄することのほうが重要だと考えて、この地域にあえて欧州人権裁判所を置いたりECの時代から欧州議会が置いたりしてきた。

 日本は第二次大戦後ポツダム宣言を受け入れた。カイロ宣言を遵守するといった。戦争を終結させることが重要だと考えたから受け入れた。平和であればこの宣言を受け入れることはなかっただろう。国体護持のためポツダム宣言に反対した者はいたが、領土を奪われることよりも戦争終結のほうが重要だと考えられたから受諾した。サンフランシスコ講和条約も同じ。千島よりも独立のほうが重要だったから。領土問題は唯一の視点ではなく、他のものとの比較において位置づけられる。中国とソ連の国境問題であったダマンスキー島問題を嘲笑った日本人・世界の人は多かった。いま尖閣問題も同じように世界から嘲笑の対象になっている。

 

尖閣諸島を考える 孫崎享さん講演録②

講演録

①からのつづき

 尖閣問題で「棚上げ」合意があったかどうか。わたしはあったと思っている。だがそれをいうと「国賊」だといわれる。201212月の『アジア時報』で栗山尚一(72年当時外務省条約課長)という人が『尖閣諸島日中関係』という論文を書いた。そのなかで、国交正常化に際して尖閣問題は棚上げにするという合意が首脳レベルでなされたと理解している、78年に再確認されていると記述している。交渉を知っている当事者がそう発言している。わたしがそのことを書いた本がある。防衛省の図書館に行ったらそれを開架図書にしていない。『はだしのゲン』じゃなくて『わたしのホン』がなかった。少なくとも78年の日中平和友好条約にいたる鄧小平と薗田直の会談録は中国が発表しているのに日本は発表していない。間違った話は公表できないとすれば、どちらが正しいのかは自明。NHKで「棚上げ合意はあった」と言ったら後輩の岡本行夫氏に「それは政府見解と違う」とたしなめられた。わたしは「だから問題なんだ」と言った。

 ここでゼロサムゲームについて考えてみたい。ラムズボサムが『現代世界の紛争解決学』で考察している。ABの利益がそれぞれ0点から100点まであるとする。A-0点でB-100点というケースもあれば、A-100点でB-0点というケースもある。A-50点でB-50点という場合もあって、合計は常に100点になる。ところが領土問題というのは、下手をすればA-0点でB-0点になりうる。逆に、領土への執着から少し離れられるとA-100点でB-100点という結果に到達する可能性もある。これを、自分への関心が0から100まであり、他人への関心が0から100まである問題だと置き換えてもよい。自分への関心が0で他人への関心が100というのは日米関係。もっといえば普天間基地問題。相手への完全な譲歩。理想的な状態は自分への関心も他人への関心も100になっているところ。五分五分の妥協ではなく双方満足の問題解決に至る道もありうるという話。このとき現実に問題なのは日本で中国の言い分をわかっている人がいないこと。鳩山さんが言ったのは「相手は相手の根拠で領有権を主張している。それを踏まえて戦争しないようにしたい」ということ。この発言が国賊だと言われてしまう。それがいまの日本の水準。

 

③へつづく

尖閣諸島を考える 孫崎享さん講演録①

講演録

 

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いまの日本は怖い時代に入ってきた。『少年H』に「おかしいことをおかしいと自由に発言できなくなった」という一節がある。これは戦前の日本の話だけではない。いまの日本、特に脱原発の運動への弾圧がそうなっている。「世界がギシギシ音を立てて崩れているときにファンタジーを作りつづけることには無理がある」と宮崎監督は言った。原発再稼動に向けた安全審査を拒んだ新潟県の泉田知事が「自分が何かで死んでもそれは自殺ではありませんから」というようなことを言わなければならない時代。『はだしのゲン』の閉架問題は、残虐なシーンがあるという理由で教育委員会が冷静に判断したからではない。在特会のメンバーが松江の教育委員会などで閉架図書にするよう脅したから。政治家はそれを知って蓋をしている。

「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき、わたしは声を上げなかった・・・そして彼らがわたしを攻撃したとき、わたしのために声を上げてくれる人は誰もいなかった」という話がある。原発、TPP、次から次へと攻撃されつづけている。わたしも国会の予算委員会でTPP推進に反論したらNHKに出演できなくなった。そのときに守ってくれる声はほとんどない。「意義を唱える者がおかしい」と扱われたら危険。一番おかしいことを言っているのは安倍首相ではないか。「福島の放射能汚染が完全にコントロールされている」「消費税を上げて法人税を下げるがそれは企業のためではない」など全部ウソだ。それなのに格好のいい言葉にみんな踊らされている。その代表格が尖閣問題。

 

中国に行ったときに尖閣問題で何を言えばいいか。「棚上げにする」と言えば解決する。しかしそれを言えば日本で袋叩きにあう。だからどの政治家も言えない。はじめに、世界が中国をどう見ているか、日本が中国をどう見ているか考えたい。経済成長で中国が米国を追い抜くと思うか否か。日本で質問するとだいたい28の比率で追い抜かないとなる。世界で質問するとどういう結果になるか。2009年、中国が米国を追い抜くと答えたのは、フランス55%、ドイツ51%、イギリス49%。一方、日本の59%、米国の57%は追い抜かないと答えた。ところが、2011年に同じ質問をすると、フランス72%、イギリス65%、ドイツ61%、米国46%の人々が、中国は米国を追い抜くと答えた。日本だけが60%の人々が追い抜かないと答えて、世界の見識と違う反応を見せた。衝撃的な結果。

米国の国防省は中国を緻密に分析している。日本では客観的なデータに頼った書籍が少なく、日本の「対中国」関係は完全に孤立している。1970年‐2010年の主要国工業生産高のグラフがある。2005年に中国が日本に追いつき追い越し、2010年に米国に追いついている。この間、日本はほぼ横ばい。多くの人の中国認識は2005年以前のまま止まっている。中国はたいしたことないと誤った認識のもと見下している。日本は中国と戦えば勝てる、または米国が出てくると思っている。だが実際にやれば完膚なきまでに敗北する。


②へつづく

中国の自然エネルギー(世界一の風力発電) 知足章宏さん講演録②

①からのつづき

その他の再生可能エネルギーでは太陽熱温水器の設備容量も世界一です。雲南省昆明市は建物の屋上が太陽熱温水器で埋め尽くされています。高層建築物には建築一体化でほぼ義務付けられています。拒否すると理由を報告しなければいけません。電気代を節約できるというメリットと、温水器の企業を昆明市の成長産業にしたいという計算があります。さまざまな補助金があって農村地域にも普及していて、日本よりも低価で購入できます。

 

中国の大気汚染は激化していますが、まだマスク性能が悪いです。2013112日には、北京市内におけるPM2.5の平均濃度が700μg/㎥(中国の環境基準の10倍、日本の環境基準の20倍近く)にまで達しました。日によって程度は違うのですが継続して発生しています。自動車が多すぎるのですが対策がうまくいっていません。最近ではナンバープレートの末尾ナンバーで判断して、半数の自動車の走行を禁止する措置も出ました。

ひどい日には、北京市の空気質量日報予報では多くの区域が厳重汚染と示され、子ども、老人、心臓疾患や呼吸器系疾患を抱える人への長時間の外出を控える警告まで出されます。排出源は自動車の排ガスが22%、発電所などの石炭燃焼が17%、揮発性有機化合物が16%、建設現場の粉塵などが16%、農村部での藁の焼却が4%とされ、25%は河北省など北京市域外由来とされています。北京でだけ対策をとってもだめです。

何もしていないわけではありません。大気汚染防止法をつくったり、排ガス規制法をつくったりしています。それでも執行しきれていないように思います。問題が顕在化したのは、2011年末に米国大使館内のPM2.5測定値が流出してからで、市民の不満や関心が高まり測定結果が公表されるようになりました。自動車の走行規制もしていますが、もともとの台数が多くてうまくいっていません。企業の生産停止措置を発動したこともあります。実際のところは確認できていませんが。独自に測定し、公表するNGOも出ています。

改善を阻んでいる課題は、自動車に関しては、ガソリンの質向上のために国有石油会社との調整が必要であること、石炭に関しても同様です。排出規制に関しても、企業が出すデータが不正確なので総量規制が意味をなしません。汚染物質排出に対して課す課徴金は、当局と企業による協議によって本来徴収されるべき金額からかけ離れ、裁判になったケースもあります。まだ人々の意識が低いので、そこが改善されなければならないでしょう。

中国の自然エネルギー(世界一の風力発電) 知足章宏さん講演録①

講演録

 

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 中国の公害の現場などに行き、深刻な汚染を目の当たりにしてきました。中国の環境問題には二面性があります。一つは深刻な産業汚染です。ガン発症率が高く非公式含めて459村の「癌村」が報告されています。上海から内陸部へ「汚染リレー」が進行しています。大気汚染は、中国の研究者が何十年も解決しないと言っているほどです。もう一つは、風力発電など再生可能エネルギーの膨大な潜在力です。ただし、同時に原子力発電も推進しています。

 浙江省の鉛蓄電池の製造工場周辺で住民の血中鉛濃度が高くなっている事例や、雲南省の癌村の調査から分かることは、貧しい地域で汚染被害が深刻化していることです。『新世紀』など一部の雑誌に限られますが、汚染の実態を取材して発表する記者も出ています。

 風力発電の設備容量は世界中で増えています。中国が一番です。2004年まではほとんどなかったのですが、2006年あたりから小規模なものから大規模なものが出てきて、この5年で爆発的に増えています。風況がよい内モンゴルで大規模なものが設置されています。ただし、発電量がまだ少ないという問題もあります。風力が732kWh太陽光9kWhです。日本との違いは増量計画が数字できちんと出ることです。計画経済の流れですが、目標と結果が違った場合は新しい数字を出し直します。昨年、国家発展改革委員会が「風力発電ロードマップ2050」を作成して、風力を普及させて電気料金を引き下げる計画を立てました。まだほとんどないのですが海上風力も増やす計画です。

風況のよいところに国が大規模な風力発電所を建設すると決定して進めるのですが、開発業者は900社が関わり、そのうち700社が国有企業です。利益は国に回ります。設備製造業者は70社で1社を除いてすべて国内資本か合併企業です。競争が激化した結果、風力バブルがはじけてリストラが横行していますが、設備製造1MWあたりで1314人の雇用を創出したとの試算があり、2011年の新規雇用は約25万人と推定されています。

国は、2003年から特許権風力発電プロジェクトを発動させて、競争入札制によって売電コストの引き下げと国産化率の上昇を狙いました。その結果、国際貿易上の問題を抱えたのですが、開発規模が拡大しました。資本力があって国からの補助金を受けている国営企業が落札しています。国策による風力発電増産で、利益は国営企業に集中しています。

2006年施行の再生可能エネルギー法では、発送電分離して電力会社に全量買い取りさせ、入札で決まった落札価格で買い取り額を決めるとしました。電気料金付加金制度をつくり、小売電気料金に上乗せした分を送配電企業に回して、送配電網の整備や風力発電の買い取り補充にあてています。風力発電が集中立地する地域の企業に買い取り負担が偏るのを避けるため配分の仕組みを整えています。

 企業が直面している課題は原材料価格の上昇と過剰生産による低価格競争です。大手の華鋭風電は新規雇用を見送って洋上風力に活路を見出そうとしています。そして、設備容量は大きいのですが、まだ3分の1が送電線につながっていません。送電網が未整備だったり、技術・管理面の問題で送電網脱落が起きたりしています。建設地域の分散化も求められています。また、ヨーロッパとは違って国策・国営企業中心のため、市民や地域団体の参加は見られません。その点では商業性が強いといえます。

 

②へつづく