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東アジア青年交流プロジェクトのブログ

中国関連の戦後補償問題の概観  墨面氏講演録②

①からのつづき

 これに加えて、2007年、西松建設との裁判の高裁で勝利したものの最高裁で敗訴したとき、判決文章のなかに「日中共同声明では、中国人の個人請求権はない」と書かれた。最高裁の判決は非常に強い拘束力を持つ。その後の強制連行裁判も同じ根拠で敗訴になった。この解釈に中国は迅速に反応した。「中日共同声明は、中日両国政府が調印した厳粛な政治文書であり、戦後の中日関係の回復と発展の政治的基盤をなしえていることから、この文書の重要な原則と事項に対し、司法的解釈を含む一方的な解釈を加えるべきではない。中国側は原則に基づき関連問題を処理するよう日本側に要求する」と強調しました。中国側の個人請求権に対するスタンスはあいまいなまま。95年の全人代で、外相が「賠償放棄」に「個人賠償は含まない」という発言をしたとされるが議事録は未公開。ぜひとも探したい。見つかれば日本側の解釈を引っくり返す可能性が見えてくる。

世界の潮流では個人賠償権を否定する国は少なくなっている。相手が国家でも個人の権利を第三者が決めるのはおかしいという考え方。日本も原爆被害の提訴やシベリア抑留の提訴に対して「個人請求権はある」と国会答弁している。法的に保護する権利はないが、個人賠償権はあるという表現だが、個人請求権は消滅していないと言及している。都合のいい話ではないか。

企業に関しては和解交渉が成立した例がいくつかある。最初は京都の大江山、そして花岡、西松です。大江山については内容があまり明らかにされてなくて、原告のみへの補償だったということがわかっている。花岡、西松は、全体解決という非常に珍しいかたちをとった。花岡の原告は11人だが和解金は強制連行された986人全員に支払うもので、ドイツにもない。企業の賠償は金額が非常に少なく対象も限定されているのが特徴なのに、花岡、西松とも金額は比較的大きい。そして賠償範囲が非常に広い。日本で亡くなった人や中国に帰り得た人、強制連行された全員に支払われる。今後の中国人強制連行への企業賠償はこのかたちで進められるだろう。裁判は完敗したのに和解は勝ち取った。中国のなかでは「明確な謝罪がない」「法的責任を認めていない」という批判もあるが少しずつ変わるだろう。

 

③へつづく