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東アジア青年交流プロジェクトのブログ

中国関連の戦後補償問題の概観  墨面氏講演録③

②からのつづき

 本国の中国では戦後補償の裁判は受理されない。戦後賠償で関わる案件で受理された2件は個別の案件。広州で日本に侵略されたときに船を供出させられ沈められた賠償を求める裁判で船主が勝利した。同じような裁判がもう1件あったのみ。日本では出せば受理せざるをえないが、中国は受理するともしないとも返答がない。その理由は、戦後賠償放棄そのものが大きなカリスマ性をもって国民に説明されてきたから。

しかし、現代のネット社会になり、韓国国内の賠償請求の動きも見えるなか「なぜ賠償請求をしてはいけないのか」と声が出ている。日本の侵略による被害のなかで中国の被害は断トツ。東北部に行けば親戚の誰かは必ず日本兵に殺されている。被害者の告発をひとつ認めると、中国政府は統制がとれなくなるのを恐れ、政策的に遂行するのも難しいと考えている。花岡裁判を取り組みはじめたとき中国政府は非協力的で妨害もした。生存者を日本に招請する許可を出さなかったり、被害者が集まろうとすると拘束したりという状態。20年を経過してようやく中国の反応も好転している。危惧はありつつも、日本の右傾化のなか国民感情を締め付けることも難しく、統制のきく範囲で徐々に開放してきている。

中国政府の高官は、「慰安婦」、強制連行、化学兵器3つは全く未解決で被害も甚大であり、日本政府に相応の対応を求めている。花岡では「聯誼会」という受難者の団体ができている。中国は民間組織を認めておらず最初は会合を開くことも難しかったが、最近は政府系の新聞にも登場するなど認めざるを得ない状況になっている。

今後、あらたに三菱関連との間で和解交渉が始まろうとしている。三菱に強制連行された人は4000人で全体の1割にあたる。ここで和解が成立すれば他の企業も含めて横並びに進展していく可能性がある。もうひとつの動きは、和解が成立した2件の強制連行裁判は被告を企業にしていたが、聯誼会は国を相手に訴訟をする動きを見せている。

中国全国の被害地域135ヵ所のうち約20ヶ所で聯誼会が結成され、その聯誼会を束ねる上部団体も成立してきている。生存者はかなり少なくなっているが、聯誼会が存在することで次の世代がそれを継承していく。運動の流れが途切れることはない。花岡の国賠訴訟の主体は被害者の孫あるいはひ孫の世代。日本政府が期待しているように、「被害者が死んでしまえば終わり」ということにはならない。

 

おわり